アメリカはおよそ81年「ドル」という基軸通貨を世界に提供してきました。
アメリカのドルが基軸通貨となったのは1944年のブレトン・ウッズ協定がきっかけです。この会議で、各国通貨をドルに固定し、ドルを金に裏付ける制度が導入され、ドルは国際金融の中心的役割を担うようになりました。
1971年のニクソン・ショックで金との交換は停止されましたが、その後もドルは事実上の基軸通貨として使われ続けています。しかし、トランプ大統領はその重荷から降りたいと言います。
なぜなのか?本記事では、その理由と背景を整理し、今後の相場や世界経済への影響を考えます。

ニクソンショックとは、1971年に当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンが発表した政策で、ドルと金の交換を停止した出来事です。これにより、各国通貨とドルを金で裏付ける仕組み(ブレトン・ウッズ体制)が崩壊し、現在の変動相場制へ移行するきっかけとなりました。
ドル基軸通貨の意味と特権
ドルが「基軸通貨」であることは、アメリカが世界経済の中心であり続けることを意味します。
国際貿易の多くはドル建てで行われ、アメリカは低金利で資金を調達できる“特権”を享受してきました。この立場は外交・軍事面でも強力な影響力をもたらし、世界秩序のリーダーシップを担う要素になってきました。
トランプが感じる“重荷”とは
しかし、この特権の裏には“重荷”もあります。
ドルが強ければ、輸出企業や製造業は不利になりますし、貿易赤字は拡大します。トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、製造業の回帰や雇用の創出を目指していましたが、ドル高がその障害となっていました。そのため、関税や保護主義を導入してドルの影響力を調整しようとしたのです。



トランプ大統領が関税を通じて貿易赤字を縮小し、ドル高の圧力を和らげたい意図があったと理解するのは妥当です。
ドル覇権のデメリット
軍事・安全保障コスト:中東やアジアでの駐留や同盟国支援など、世界の安定を維持するための出費。
外交的責任:国際金融危機時の支援、他国への経済制裁など、政治・外交面でも大きな役割を負う。
財政負担の増大:基軸通貨として世界にドルを供給するため、国債発行や金融緩和の圧力がかかり、財政赤字が膨らみやすい。
国内投資の遅れ:国外への責任や支出が優先され、国内インフラや福祉への投資が後回しになるリスク。
もしドルを手放したら?
アメリカが基軸通貨の座を降りた場合、国際的な影響力は大きく低下し、通貨の信頼性も揺らぐでしょう。
関税や保護主義で一時的に国内産業を守れても、世界はユーロや人民元、あるいは複数通貨が共存する多極化体制へとシフトする可能性があります。ルール作りの主導権を失えば、アメリカの経済力も弱まるリスクが高まります。



2022年のロシア・ウクライナ戦争で、アメリカはロシアのドル決済を制限しました。これは世界に『ドルも政治の道具になり得る』と示し、一部の国はドル依存のリスクを強く意識しました。
その文脈で、BRICSという経済連合は存在感を増し、2009年の発足から15年以上、脱ドル化を意識した取り組みを続けています。
筆者が考えるトランプ大統領の思惑
トランプ大統領が経済政策で目指しているのは、選挙や国内人気取りだけでなく、アメリカの存在感を強く打ち出すことです。そのために次の3つの軸が見えてきます。
- 関税強化でドル高を抑えたい
輸入を減らし、国内産業を保護する狙いがあります。ドル高が続くと輸出が不利になるため、貿易政策で為替の圧力をコントロールしたい意図があります。 - 利下げで株価を押し上げたい
金利を下げることで企業の資金調達コストを下げ、株式市場を活性化させる。中間選挙や次期選挙に向けて「株価が上がってアメリカが強い」というイメージを作る狙いがあります。 - 国債金利の上昇を抑えたい
金利上昇は国債の利払い負担を増やします。金利を抑え、財政コストを軽減したいという思惑もあると考えられます。



基軸通貨は降りたいが、アメリカという国は強くしたい。少し難しい内容ですが、アメリカ大統領の中間選挙に向けて動いている印象です。
補足ポイント
- これらは短期的には景気を押し上げる効果がありますが、長期的にはインフレや通貨安、国際摩擦などのリスクを伴います。
- FRBは本来独立して政策を決定しますが、大統領の圧力や市場の期待が金利や相場に影響を与えることはよくあります。
- 「関税+利下げ+金利抑制」という3本柱は、市場の方向性を大きく動かす可能性があり、FRBとの政策の噛み合い方次第で相場が荒れる局面も考えられます。
筆者のまとめ
今回のジャクソンホール会議では、FRBが9月の利下げを示唆しました。一方でトランプ大統領は以前から利下げを求め、ドル基軸通貨からの脱却や関税強化を目指してきました。ここ半年間、FRBとトランプ大統領の政策は噛み合わず、市場も乱高下するだけで明確な方向性を欠いていました。
しかし、もしこの二者の意見が一致するタイミングが訪れれば、相場は大きく動く可能性があります。
利下げ・ドル覇権の弱体化・関税強化という3つの軸が揃えば、ドル安や株高が一気に進むかもしれません。
雇用やインフレなど複雑な課題も絡みますが、FRBと政権の方向性が重なるときは、市場にとって大きな節目となるでしょう。今後は、8月29日に控えるウォーラー理事の発言や雇用統計の結果がそのシグナルとなる可能性があります。
ドルは重荷か、それとも武器か。トランプ大統領が描くシナリオは国内産業を守るための戦略にも見えますが、その代償としてアメリカが築いてきた「世界の信頼」をどう維持するかが問われています。次の一手に注目です。



覇権国家は100年で変わるサイクルがあります。
ずっと続くと思い込むのは何事もリスクがあると考えます。
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