世界の金融市場が注目する年次イベント「ジャクソンホール会議」。
2025年も各国の政策関係者が集まり、FRB議長パウエルの発言に注目が集まりました。
ドルは揺らぎ、債券は反転し、株式市場も動揺。かつて独走していたアメリカの“一強”時代は、今、転換点を迎えているのではないでしょうか。
この記事では、ジャクソンホールで示された米経済の課題を浮き彫りにし、ドル覇権の未来を考察します。

ジャクソンホール会議は毎年行われていて、相場の転換点になることがあります。昨日の発言を整理して、相場の未来を考えてみましょう。
ジャクソンホール会議とは?
ジャクソンホール会議は、アメリカ・ワイオミング州ジャクソンホールで毎年8月に開かれる経済政策シンポジウムです。世界各国の中央銀行総裁や経済学者、金融当局者が集まり、金融政策や経済の課題について議論します。
FRB議長の発言は市場に大きな影響を与えることで有名です。
2025年のジャクソンホール会議はどうだった?
一番に市場に注目されていたのは8月22日(金)の23:00からのパウエル議長の発言でした。
FRBパウエル議長の発言をまとめてみました。
労働市場の弱まりとインフレ圧力がともに存在する「リスクの転換点」にいると指摘し、9月の利下げの可能性を示唆しました。市場はこれを受けてリスク資産を買い進め、株高・債券利回り低下・ドル安が進行。とはいえ、議長は明確な政策変更を約束したわけではなく、あくまでデータに基づく判断を優先する慎重さを強調しました。
市場はどう反応した?
為替市場の反応
- ドル売りが急加速
議長の「9月の利下げ示唆」によって、ドルは主要通貨に対して軟化。円やユーロ、ポンドなどに対してドルが下落しました。Reuterscapitaleconomics.com - ドルインデックスの低下
ドルの総合価値を示すドル指数も下落し、他通貨との相対的な強さが弱まりました。capitaleconomics.comReuters - 市場の全体的な流れはリスクオン
ドル安を背景に、安全資産からリスク資産へ資金が移り、株価や仮想通貨・ゴールドなどへの投資が加速しました。Reutersnews.com.au



ドル円は1時間足らずで2円下落しました。
株式市場
- ダウ平均が約846ポイント(約1.9%)上昇して史上最高値を更新。S&P 500は1.5%、ナスダックも1.9%の上昇。小型株(ラッセル2000)はさらに強く上昇し、投資マインドが全面的に強まりました マーケットウォッチ+3ウォール・ストリート・ジャーナル+3AP News+3。
ゴールド(金)
- インド市場(MCX)ではゴールドが10g当たり約956ルピー上昇し、一時「1ラック(10万ルピー)」を回復。国際市場でも約1.09%上昇し、1トロイオンスあたり約3,418ドルで取引されました mint。
- また、他の記事ではゴールドが3,420ドル前後で推移し、リスクオン期待とドル安の流れから買いが強まったケースも報告されています インベスターズ.com。
暗号資産(ビットコインやアルトコインなど)
- ビットコイン:約2.7%上昇し、115,800ドル前後に回復。Ethereumは14%前後の上昇、XRPやSolanaも6〜9%、Dogecoinは10%という大幅高でした Bitunix |+7バロンズ+7AInvest+7。
- 他の報道でも、EthereumやBinance Coinが過去最高値(ATH)を更新、暗号市場全体で時価総額が数千億ドル単位で拡大したと伝えられています AInvestThe Economic TimesInvestopedia。
米国経済の現状 — インフレと労働市場 —
現在、FRBの政策金利は4.25〜4.50%と高い水準にありますが、インフレ(特にPCE)はまだ2〜3%近辺で推移。関税の影響を受けた物価上昇は今後も懸念材料であり、慎重に見極める必要があります wolfstreet.com+9The Washington Post+9Investopedia+9。
一方、労働市場の減速も顕著です。7月の雇用者数は月平均35,000人と低く、過去の統計も大幅に下方修正されました。失業率は低位安定(4.2%前後)であるものの、雇用へのリスクは明らかに高まっています 連邦準備制度理事会。
このように、「インフレへの上方リスク」と「雇用への下方リスク」が同時に進行している状態こそ、FRBの難しい舵取りを表しています。



アメリカでは物価上昇が続く一方で、働く人の数が減ってきています。雇用統計が1%悪化するだけで、約4万人もの人が職や収入を失い、生活が厳しくなると言われています。
ドル基軸通貨の未来
長年、「ドル」は「非常に特権的(exorbitant privilege)」な存在として、世界中で基軸通貨としての地位を享受してきました。
しかし、現在のインフレ圧力や財政拡張、政治的混乱は、この優位性を揺るがすリスクをはらんでいます。
パウエル議長の今回の発言を受け、ドルは売られ、海外では先高観が後退しているとの見方もあります。新たな通貨としてユーロや人民元が台頭するというより、ドルの地位が相対的に弱まる可能性が現実味を帯びてきました。apnews.com+10マーケットウォッチ+10The Washington Post+10
アメリカ“一強”体制の終わりとその余波
トランプ陣営は、ドル覇権からの脱却や保護主義による国内回帰を志向。
FRBへの政治的圧力も強まっていますが、パウエル議長は「我々はデータに基づいて判断する」と明言し、独立性を維持しようとしています apnews.comガーディアンReuters。



ドルを弱めることでアメリカ製品を安く輸出でき、貿易赤字の改善が期待されています。ただし、ドルが基軸通貨であることで米国は低金利で借金できる「特権」も享受しており、これを手放すのは大きな代償とも言えます。将来は、ユーロや人民元が補完的な存在になるか、複数通貨が共存する時代になるかもしれません。
今後のドルの立ち位置予測
- 緩やかな多極通貨化:ユーロや人民元が部分的な代替候補として注目される一方、資本流動性や政治的制約により、当面はドルの優位性が完全に崩れることは難しいという見方が有力ですフィナンシャル・タイムズ。
- 混合型シナリオ:「複数通貨による補完型体制」へ移行するが、支配的存在がない分散的な世界通貨体制となる可能性もありますフィナンシャル・タイムズウィキペディア。
- 制度的再構築の可能性:「マラ・ア・ラーゴ合意(Mar‑a‑Lago Accord)」のように、ドルを弱めながらも基軸通貨としての役割を保ちつつ、貿易・金融秩序を再構築する試みも議論されていますmarketwatch.com+2ウィキペディア+2。
筆者の見方✍️
昨日のパウエルFRB議長の発言は、9月の利下げを示唆するような内容で、市場はすぐに反応しました。ドルは売られ、株価は上昇。しかし、これはあくまでも序章に過ぎません。雇用統計では数万人規模で仕事を失っている現実があり、実態経済と市場の数字は大きく乖離しています。パウエル議長が言及したように、アメリカの労働市場にはすでにほころびが見え始めているのです。
コロナ禍からの急激な金融緩和で大量の資金をばらまいた代償は、必ずどこかで精算されます。数字だけが先行する経済は、基盤が弱ければ崩壊も早い—それは日本も同じです。
また、トランプ大統領がドル基軸通貨の重荷から脱却したいと考えるのも理解できます。長年、アメリカは「世界の通貨」を維持するために多大な負担を背負ってきました。しかし、もしその地位を降りるとしたら、その穴を埋める手段は限られます。関税や保護主義で国内産業を守るという戦略はありますが、基軸通貨だからこそ他国が従ってきた構図が崩れれば、アメリカの発言力は急激に低下しかねません。
基軸通貨の座を降りた後の世界で、アメリカは何を軸に国力を維持するのか。今のままでは、強さを支えてきた金融と経済のバランスが崩れ、その影響は世界全体に波及するかもしれません。



次の一手になる注目指標もまとめるので、次回の記事もぜひお読みください
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ガーディアンの記事。トランプ政権の圧力やFRBの独立性、政策変更の背景を伝える。 - Powell signals Fed may cut rates soon even as inflation risks remain
AP通信の記事。金利政策の方向性とインフレ懸念、労働市場への影響をカバー。




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